内視鏡外科臨床
当科における内視鏡外科手術の年次推移を示します。
各疾患における症例数、臨床試験に関しては、各疾患グループの項をご参照ください。
肥満手術について
令和2年4月より、内視鏡外科部門・上部消化管部門と他科が協力して「肥満・糖尿病外科診療」を開始することになりました。
はじめに
現在、世界における肥満はBody Mass Index (BMI) ≧30kg/m2とされています。しかし日本ではBMI ≧25kg/m2であれば、肥満と定義されます。日本における肥満者の割合は男性で3割、女性で2割程度おり(「国民健康・栄養調査結果の概要/平成29年)、さらに日本におけるBMI30 kg/m2以上の割合は全人口のうち3.7%, 約400万人いるとされています。この割合はここ10年ほぼ同程度の水準で推移しています。また、糖尿病人口(HbA1cが6.5%以上もしくは治療中の患者)は約1000万人とされ、この数値は平成9年以降増加していると報告されており(同上、調査結果の概要)、日本人は内臓脂肪蓄積型肥満が多く、欧米人よりも低い肥満度で併存疾患が出やすいという特徴を持ち合わせています。
肥満(ここではあえて疾病といわせていただきますが)は、メタボリックシンドロームに代表されるように、内臓脂肪の蓄積により、脂質異常、高血圧、高血糖を引き起こす病態です。これを改善するには生活習慣を見直し改善することが望まれます。放置した場合には、虚血心疾患、脳卒中などの動脈硬化に起因する疾病や、睡眠時無呼吸症候群、腎臓病、肝障害、過体重による関節疾患、しいては悪性疾患の合併などを引き起こす可能性があります。一言で生活習慣を改善しましょうと言っても、よほどの強い精神力がないとできない、やっかいな疾病であると考えられます。
肥満・糖尿病患者に対する外科治療について
以前より欧米において病的肥満(さまざまな併存疾患を有する肥満)に対する外科的治療(Bariatric Surgery, 減量手術)が行われており、その手術方法は多岐にわたります。病的肥満に対する外科治療と従来の内科的治療(薬物、運動、ダイエットなど)を比較したメタアナリシスでは、外科治療群の超過体重減少率は内科的治療に比べて大幅に減少率が高く、また糖尿病の寛解率も外科的治療群で有意に高かったという報告があります。
日本においては、2014年に腹腔鏡下袖状(スリーブ)胃切除術が保険適応として認められ、国内では2017年までで36施設が日本肥満症治療学会により認定施設として診療を開始しています。またその認定を受けるための準備を行っている施設も多くあり、今後も施行施設数は増えていくと考えられます。症例数としては、日本内視鏡外科学会の報告によると、2017年までに1,191例が施行されており、この症例数も増加傾向にあります。
腹腔鏡手術で行うことにより、これまでの日本における報告では、低い合併症で術後在院日数も短く、有意な超過体重減少率が得られ、高い糖尿病改善率、高血圧改善率、脂質異常改善率が得られております。
肥満症に対する手術適応
肥満症に対する手術適応(腹腔鏡下袖状胃切除術)は、日本肥満症治療学会で明確に決められており、
- 8歳から65歳
- 6ヶ月間の内科的治療を行ったにも関わらず、有意な改善が認められないもので次のいずれかを満たすもの
- 6ヶ月以上の内科的治療によっても十分な効果が得られないBMIが35以上の患者であって、糖尿病、高血圧症、脂質異常症または閉塞性睡眠時無呼吸症候群のうち1つ以上を合併しているもの。
- 6ヶ月以上の内科的治療によっても十分な効果が得られないBMI32.5~34.9の肥満症およびヘモグロビンA1c (HbA1c)が8.4%以上(HGSP値)の糖尿病患者であって、高血圧症(6ヶ月以上、降圧剤による薬物治療を行っても管理が困難(収縮気圧160mmHg以上)に限る。)、脂質異常症(6ヶ月以上、スタチン製剤等による薬物治療を行っても管理が困難(LDLコレステロール140mg/dL以上またはnon-HDLコレステロール170mg/dL以上)なものに限る。)または閉塞性睡眠時無呼吸症候群(AHI*≧30の重症のものに限る。)のうち1つ以上を合併しているもの。
*AHI (無呼吸低呼吸指数): 1時間あたりの無呼吸低呼吸回数のこと
当院では外科、代謝・内分泌内科を含めた各内科、麻酔科、心療内科(精神神経科)、看護部、栄養課、ソーシャルワーカー、事務とチーム編成を行い、診療開始の準備が整っております。
チームで肥満患者さまひとりひとりについての検討を行い、その患者様が肥満手術を受けるに耐えうるか、過体重や各併存疾患の高い改善率が得られるかの討議を行い、各種スクリーニングを行い、併存疾患のコントロールを行った上で手術を行ってまいります。
さいごに
近畿大学病院は南大阪では唯一の大学病院として、地域医療に貢献しており、その疾病はさまざまです。今回、肥満・糖尿病外科手術を開始することにより、文字通り「オール近大病院」でひとりひとりの患者さまの診療にあたってまいりますので、貴施設で適応の患者さまがおられましたら、ぜひとも肥満・糖尿病外科外来にご紹介ください。患者様と直接お話をし、適切な治療に努めてまいります。