食道・胃・十二指腸胃食道逆流症(ガ―ド)
正常の食道胃逆流防止機構
食道と胃のつなぎ目(接合部)には、胃の内容や胃酸が逆流しないように生まれた時から備わっている胃食道逆流防止機構があります。具体的には『下部食道活約筋』や『His角(食道と胃壁が作る角度です)』などがあり、『下部食道活約筋』は普段はきゅっと閉まって胃の内容物が食道へ逆流するのを防いでいます。『His角(ヒス角)』は通常鋭角になっていて、食べ物などが胃に入って膨らむと丁度腹部食道を圧排するような構造になっています。そのほか、食道裂孔を形成する『横隔膜』や『腹部食道』の存在も食道胃逆流を防止する因子として挙げられます。(図5)
図5:逆流防止機構
胃食道逆流症(ガ―ド)における食道胃逆流防止機構とその病態
Gastroesophageal Reflux Disease: ガード(GERD))とも呼ばれ、何らかの理由で胃食道逆流防止機構が壊れてしまうことで胃酸が食道に逆流し、胸やけなどの様々な愁訴を訴える疾患を総称したものをいいます。胃食道逆流防止機構が壊れるような例としては、下部食道活約筋が緩みすぎて絞まらない、His角が何らかの理由で鈍角になる、横隔膜の筋肉や支持組織が緩んで食道裂孔(食道が横隔膜を通過するための孔です)が開大し、胃が胸の中(胸腔内)へ飛び出る食道裂孔ヘルニアという状態になる、などがあります(図6)。
図6:逆流防止機構の破綻の原因
GERDのなかで、内視鏡検査でびらんや潰瘍などの粘膜障害がみられるものは『逆流性食道炎』と呼ばれていて、この状態になると胸やけや痛みなどの症状がさらに強くなりますので注意が必要です(図7)。
図7:食道裂孔ヘルニアと逆流性食道炎
さらにこの逆流性食道炎を放置したままにすると、繰り返す炎症のため下部食道が瘢痕(固くなることです)狭窄を起こして食べ物が通らなくなったりします。また、食道の扁平上皮粘膜が脱落し、酸に強い円柱上皮粘膜(発見者にちなんでバレット上皮といいます)に置き換わってしまうことがあり、この上皮がさらに広がるとバレット食道と呼ばれる状態になり、食道がんの発生率が約10倍程度高くなりますので非常に注意が必要です。最近の日本内視鏡学会の調査報告ではバレット食道の長さが3㎝以上のもの(Long Segment Barrett's Esophagus; LSBE)では1年間でがんが発生する確率はアメリカで約0.4%、日本では1.2%と報告されています。
胃食道逆流症(ガ―ド)の診断と検査
症状としては『胸やけ』、『吃逆(げっぷ)』、『胸痛』などがあります。夜寝ている間に逆流が起こると『夜間咳嗽(咳が出る)』といった症状を訴える方もおられます。『肥満の方』や『背が曲がっている方(猫背、亀背)』は腹圧が高くなっていますので胃食道逆流症を起こしやすいといわれています。
検査ですが、内視鏡を行って逆流性食道炎の有無や程度(改訂ロサンゼルス分類)を確認することでたいてい診断することができます。まれに内視鏡での変化が少なく、24pH測定検査を行うことで診断する場合もあります。これはアカラシアの食道内圧検査と同じように鼻からpH測定用の細い管を入れて24時間食道のpHを測定することによってどの程度胃酸が逆流しているのかを確かめる検査です。
図8:改訂LA分類
胃食道逆流症(ガ―ド)の治療
ほとんどの場合、胃酸抑制薬(H2ブロッカーやプロトンポンプ阻害剤)で症状は警戒します。さらに消化管粘膜保護剤、消化管運動改善薬や漢方薬(六君子湯)を追加することもあります。
内服薬で効果がない場合、何度も繰り返す場合には、外科手術(噴門形成術)など侵襲的な治療が選択されることになります。内視鏡治療として井上教授がAnti-Reflux Mucosectomy;ARMS(アームス)を開発されていますが、長期成績がまだ確定していないこと、狭窄の副作用があること、食道裂孔ヘルニアがある場合には効果が期待できないことなどから、まだ一般的ではありません。代表的な手術方法としてはNissen(ニッセン)法やToupet(トゥーペ)があります(図9)。食道胃接合部を胃底部(胃の上部でまず食事を溜める部分)で巻き付けて、逆流しにくいようにすることが目的です。またガードを起こす原因に食道裂孔ヘルニアがある場合はヘルニアを修復する手術(食道裂孔縫縮術またはメッシュシートを用いての修復術)を付加します。当院では腹腔鏡を用いて、胃を食道周囲に4分の3周程度巻き付けるToupet(トゥーペ)法を採用しています。逆流症状でお悩みの方やお薬で治療してもよくならない方はぜひご相談ください。
図9:噴門形成術(Nissen(ニッセン)法とToupet(トゥーペ)法)