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肝臓・胆道・膵臓慢性膵炎の診断と治療

慢性膵炎ってどんな病気?

膵臓は食物を消化するための消化酵素を分泌する「外分泌」と、血糖を下げるインスリンなどのホルモンを分泌する「内分泌」の全く異なる2つの機能を持つ、重要な臓器です。そして、慢性膵炎という病気は、その膵臓が10年以上の長い時間をかけてゆっくりと破壊されていく厄介な病気です。経過が長く、その中でさまざまな症状が出てきますが、患者さんをいちばん悩ませるのはおなかと背中の痛みです。慢性膵炎では、膵臓でつくられて腸に分泌されてから食物を消化する消化酵素(膵酵素)が膵臓の中で病的に活性化される結果、自分の膵臓をゆっくりと消化・破壊し、長い時間をかけて厚い線維組織に置き換えられてゆきます。そして、図1のように膵臓がほぼ線維に置き換わって硬くなると、消化不良による便通の異常や栄養障害と糖尿病が起こってきます。

図1.正常人と慢性膵炎患者の膵臓の顕微鏡像
正常でみられる膵臓の外分泌部、内分泌部が、
慢性膵炎ではほとんど消失して線維に置き換わっている。

慢性膵炎の原因と症状・経過は?

最も多い原因はお酒の飲み過ぎですが、お酒を飲んだら誰でも慢性膵炎になるわけではなく、一定の体質の方がお酒を飲みすぎた場合に慢性膵炎になると考えられます。また、"特発性"といって、原因のよくわからない慢性膵炎もあり、女性に多い傾向があります。
初期には、多くの場合では強い腹痛発作を繰り返します。進行すると消化吸収不良による下痢や体重減少、糖尿病が出現します。場合によっては、膵臓に石ができたり、膵管(膵液の通り道)が、太くいびつになったりすることがあります(図2)。このような状態になった慢性膵炎は元には戻らない(不可逆性)と考えられます。慢性膵炎になると膵癌の発症リスクが7 ~ 11 倍に上昇し、寿命も平均より10 年ほど短くなるといわれています。

図2.術中写真
拡張した主膵管を切開したところ、内部に多数の膵石を認めた

 慢性膵炎はおなかが痛くなる病気です。自覚症状では腹痛が最も多くみられ、稀に痛みのない患者さんもいますが、約80%の方が経過中に痛みを感じます。痛みの程度は、強いものからごく弱いものまで様々ですが、慢性膵炎の急性期には急性膵炎と同じようにみぞおちを中心に非常に強い痛みが起こります。痛みは臍の左右や背中にも及びます。これは、膵臓が胃の裏側にあるためです。そして、吐き気や嘔吐も伴います。また、場合によっては重苦しさや、鈍い痛みとして感じる場合もあります。
痛みの特徴としては、食事をした数時間後に現れることが多く、アルコールや脂肪摂取が引き金になります。また、持続性で、鎮痛剤が効かない頑固な痛みの場合もあります。その他の症状としては、上腹部の膨満感や、倦怠感などもあります。
慢性膵炎の早い段階(代償期)では、膵臓の働きは保たれており腹痛が主な症状ですが、進行すると(移行期)、膵臓の働きが徐々に落ち、膵臓の外分泌腺や内分泌腺が減少して、膵臓の機能が著しく低下してしまいます(非代償期)。そうなると、腹痛は軽くなり、無くなってしまうこともあります。また、膵臓の働きが低下することにより、消化不良に伴う下痢、脂肪便、体重減少などの症状や、糖尿病による喉の渇き、夜間の排尿、尿量の増加などの症状も出現するようになります(図3)。

図3. 慢性膵炎の病態と経過

診断・検査は?

慢性膵炎は、日本膵臓学会が定めた慢性膵炎臨床診断基準により診断します。(表) 腹部超音波検査やCT検査により、膵臓の中に膵石があるときや、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)や核磁気共鳴法による胆管膵管像(MRCP)によって不規則な主膵管拡張があれば、画像だけで慢性膵炎と診断されます(図4)。しかし、このようなはっきりとした所見のある慢性膵炎では、治ることはなく進行を止めることはできません。そこで、最近では、もっと早い時期の慢性膵炎を診断して、病気の進行をくいとめようという試みとして、早期慢性膵炎という病名が提案されています。そのためには、より膵臓の細かい変化をとらえることが必要です。胃や十二指腸に挿入した内視鏡の先端の超音波装置から膵臓を観察する超音波内視鏡(EUS)により膵臓を検査して、膵臓内の細かい変化を観察して診断する試みが進行中です。

表.慢性膵炎臨床診断基準 2019(日本膵臓学会)

慢性膵炎の診断項目

  1. 特徴的な画像所見(確診所見:膵管内の膵石など)
  2. 特徴的な組織所見(確診所見:実質の脱落と膵線維化など)
  3. 反復する上腹部痛発作
  4. 血中または尿中膵酵素(アミラーゼ、リパーゼなど)値の異常
  5. 膵外分泌障害
  6. 1日60g以上(純エタノール換算)の持続する飲酒歴または膵炎関連遺伝子異常
  7. 急性膵炎の既往

●慢性膵炎確信:a, bのいずれかが認められる

a. 1または2の確信所見
b. 1または2の準確信所見と、3-5のうち2項目以上

●慢性膵炎準確信:1または2の準確信所見が認められる

●早期慢性膵炎:3-7のいずれか3項目以上と早期慢性膵炎の画像所見が認められる

図4.慢性膵炎の画像診断

治療は?

慢性膵炎の治療で、最も大切なのは原因を除くことです。大多数の方の原因が飲酒ですので、まず断酒をしていただくことが必須です。慢性膵炎の進行を早めて発癌を促進することがわかっている喫煙をやめていただくことも重要です。
そのうえで、代償期で痛みの激しいときには、鎮痛薬に加えて膵酵素の働きを止める膵酵素阻害薬や栄養剤の内服などが行われます。非代償期になると、低下した膵臓の機能を補う必要があり、外分泌機能の低下に対しては消化酵素薬の内服が、内分泌機能の低下に対してはインスリン注射が行われます。

痛みに対する治療

慢性膵炎で最も大変なのは頑固な痛みです。鎮痛薬を常用していると次第に強い薬でも効きが悪くなり、ついには麻薬をするようになります。そうなる前に、何らかの手を打つ必要があります。慢性膵炎による痛みは多くの場合、膵液が十二指腸に流れている膵管の中に石(膵石)ができて、そのために膵液の流れが悪くなることによります。以下のような治療を行います。

内視鏡治療

内視鏡で十二指腸の膵管開口部である乳頭から膵管の中に管を入れて膵石を取り出して、流れの悪い膵管にステントという管を入れて膵液の流れを良くします。成功すれば痛みがなくなる確率は高い治療です(図5)。

図5.内視鏡治療 - 膵管ステント

体外衝撃波による膵石破砕

内視鏡治療で、膵管の中の膵石がはまり込んで取り出せないときに、体外衝撃波によって結石を割ってから膵石を取り出してステントを入れる方法です。これも施設によっては高い成功率が報告されています。

手術治療

これらの治療で痛みが消えないときや、いったんは良くなったが再発するような場合、内視鏡治療や体外衝撃波の治療が最初から困難な場合には、手術治療が選択されます。特に、ステント治療では3か月おきにステントを入れ替える必要があり、ステントを抜いた後に痛みが再発することが多く、結局は手術になる場合が多いとされています。ステント交換など、反復する内視鏡治療は1-2年以内の期間に限って行うことが本邦のガイドラインでも提案されています。
 手術は、痛みをおさえること以外に、悪くなった膵臓のはたらき(外分泌機能と内分泌機能)をできるだけ維持する、あるいは悪化の進行を遅らせる効果も期待されています。また、繰り返す炎症をおこらなくすることにより、膵臓がんの発症を予防する効果も示されつつあります。

手術は通常3〜4時間で行われます。

ではどのような手術をするのでしょうか。手術は大きく分けて膵臓を切り取る膵切除術と膵液の流れを良くする膵管ドレナージ術に分けられますが、膵石のために膵液の流れが悪くなって膵管が太くなっているような場合には、膵管ドレナージ術が有効です。この手術は、膵臓を太くなった膵管に添って切り開いて、膵臓の頭の部分に詰まった石を取り除いたのちに、大きく開いた膵管に小腸をつなげる手術です(図6)。この手術は開発した医師の名にちなんでFrey手術といいますが、それにより膵液はスムースに腸に流れるようになり、90%以上の患者さんで痛みが消失します。ただ、痛みはなくなっても慢性膵炎がなおって膵臓が元通りになるわけではありません。断酒や禁煙などの生活管理は必要です。

図6.慢性膵炎に対するFrey手術

 なお、私どもの近畿大学病院では消化器内科と外科が一体となって、慢性膵炎の治療に取り組んでおり、内視鏡治療と手術治療を組み合わせて、個々の患者さんに最適な治療を行っています。慢性膵炎治療の症例数は西日本では最大数を数え、手術治療では全国屈指の治療数と良好な治療成績を報告しています(図7)。大阪府はもとより府外からも多くの患者さんのご紹介をいただいております。

図7

日常は何に注意したらいいでしょうか

まず、アルコールが原因の方は、絶対に断酒が必要です。とはいっても、なかなか完全にはやめられないのも事実です。特に手術をした半年後あたりから、飲酒を再開してしまう患者さんがおられます。しかし、お酒を少しでも続けていると、たとえ手術によって痛みがなくなっていても、膵臓の破壊が進行して消化吸収不良と糖尿病が悪化していきます。どうしてもお酒を止められない場合には、断酒会などへの参加も一つの方法です。また、特発性膵炎の方は、一体どうして慢性膵炎になったのか不安に感じておられたり、遺伝性の有無などについてもご心配のことと思います。 私共の近畿大学では患者さんとご家族と共に、慢性膵炎について一緒に学ぶ、患者さんとの勉強会を行っています(図8)。このような会に参加して、お互いに悩みを共有して、前向きに病気に立ち向かっていくことも必要と思います。積極的なご参加をお待ちしています。

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