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食道・胃・十二指腸胸部食道癌 外科手術

食道の周囲には気管や大動脈、心臓、肺といった重要臓器が密接しており、食道癌手術ではそれらの大事な組織から癌腫を剥離、切除して、加えて、頸・胸・腹部の広い範囲のリンパ節が転移を起こしやすい領域であるため、それらをしっかり取り除くこと(リンパ節郭清)が根治性のために重要です。また切除後に胃を腹部から頸部までもちあげてつなぐ(吻合)という大きな手術で、約8時間はかかります。
食道癌手術は以前の右開胸手術から、小さな傷で行う鏡視下手術、そしてロボット支援下手術へと進歩してきました。ロボット手術の利点は高精度3Dカメラで細い解剖を確認でき、関節のある鉗子でよい角度から手ぶれなく手術でき、とても正確な手術がしやすくなります。弱点は触角がなく映像ですべてを判断する必要があり、視野外での鉗子接触に注意が必要です。胸腔鏡下手術のことを低侵襲食道切除術(MIE:Minimally Invasive Esophagectomy)と呼びます。このMIEの普及と医師の熟練で、より精緻な手術と侵襲の軽減がなされ、患者さんの術後の状態はかなり負担が少なくなってきています。
 胸部食道癌手術もうひとつのテーマは消化管再建です。腹部から頸部まで長い距離を消化管を持ち上げます。胃が使えなければ、小腸や大腸を使います。血行の状況や、組織にかかる緊張に気をくばりながら行う難しい再建術です、縫合不全を起こさないことはもちろん、食べやすさの実現なども重要です。
進行癌の切除やむずかしい再建では手術の技術と工夫をもってなんとか成功させる側面があり、近畿大学食道外科は数多くの食道癌治療経験から生まれたノウハウを持っており自信をもって治療を提供できると思います。
手術は1.胸部操作、2.頸部操作、3.腹部操作、4.再建術で終了します。これらについて順に解説していきます。

1.胸部操作

胸部操作のアプローチには、①ロボット手術、②胸腔鏡手術、③縦隔鏡手術、④開胸手術があります。
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  1. ロボット支援下食道切除術

    近畿大学病院では、国産ロボット"hinotori" (Medicaroid社)と"daVinci"(INTUITIVI社)をどちらも使用することが可能です。うつ伏せの姿勢(腹臥位)で、二酸化炭素で右肺をしぼませて手術空間をつくり、右胸の複数の小さな傷から専用鉗子を入れて手術を行います。癌病巣を含む食道と領域リンパ節を切除します。大動脈、心臓、肺門部の血管、そして気管といった大切な臓器から丁寧に食道をとりはずし、大事な神経は温存し、癌を切除します。特に上縦隔には反回神経という声帯を司る細い神経があり、周囲リンパ節は転移をおこしやすいので、神経は温存しリンパ節をきっちりと郭清するという難しい操作が必要です。病巣切除後に肺を膨らませ、胸部操作を終了します。
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  2. 鏡視下食道切除術(腹臥位)

    従来の胸腔鏡手術も現在も継続して行っています。ロボット手術は精緻な手術と医師の負担軽減になりますが、病院側のコスト負担が増え、手術枠がまだ限られているのが現状です。胸腔鏡でも手術の内容は同じで、ロボット支援下手術でできることと同等の手術はしっかり行えます。(医学書院 臨床外科 76 669-675 2021年6月)
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  3. 縦隔鏡下食道切除術(仰臥位)

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    呼吸能の低下や肺手術既往で胸部アプローチができない患者さんのために
    通常の食道癌手術は左片肺換気で右胸腔アプローチですが、患者さんの中には肺気腫などで呼吸能力の弱っている方や肺疾患の手術既往などで片肺換気アプローチができない方はおられます。そういったときに手術をあきらめるのではなく、縦隔鏡アプローチが手術を可能にします。左頸部の4cmの切開創から専用の装具を付けて二酸化炭素を送り込み(気縦隔法)、5mm径のカメラで内部をみながら、鏡視下鉗子類で食道の剥離とリンパ節郭清を行っていきます。下縦隔は腹側から行います。胸腔アプローチよりは大きな腫瘍の切除やリンパ節郭清精度に少し制限はあっても、根治切除できる選択肢となります。

  4. 開胸手術(左下側臥位)

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    当院では鏡視下手術の優位性から、2023年1月以降は開胸手術を行ってはいません。ただし大動脈や気管といった臓器に浸潤の恐れのある腫瘍や放射線治療歴がある場合は、食道癌周囲組織は硬く変性し、臓器との境目が不明瞭になり、とても手術が難しい状況となります。こういった状況でも鏡視下手術には拡大視で剥離層をみきわめるという利点があり、開胸を選択することはないのですが、大血管からの出血というリスクは背中合わせです。もし止血に難渋するときは開胸手術への移行が考慮されます。これまでの開胸手術の経験がとても大切になります。(手術 71(5) 743-751 2017年4月)
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2.頸部操作

仰臥位で頸部と腹部操作を行います。頸部リンパ節転移のない患者さんには左側に4cmの小切開をおき、左頸部内側のリンパ節郭清(2領域郭清)を行います。頸部リンパ節転移のある患者さんには、両側に頸部切開をいれ、両側の頸部リンパ節および鎖骨上リンパ節郭清を行います(3領域リンパ節郭清)。(へるす出版 消化器外科 40(1) 17-29 2017年1月 )
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3.腹部手術(腹腔鏡補助下手術)

腹部操作は上腹部に7cmの創と腹腔鏡ポート3本を挿入して、腹腔鏡下に手術を行います。食道裂孔から胃噴門周囲および後腹膜周囲のリンパ節を郭清し、胃を受動し、胸腔内の食道と癌腫を取り出します。今後はロボット支援下による完全腹腔鏡手術も行っていきます。
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4.再建術

癌腫が取り除かれた後、切除した食道の代わりを作る手術(再建)を行います。再建は胃を細長く管状にして、胸骨の後面を通して頸部まで挙上し、頸部食道と吻合します。★胃管のタイプは大きめの亜全胃管と細くて長い細径胃管を使い分け、★吻合法は円形吻合器と直線縫合器を使う方法を適材適所選択します。また胃を使えない場合は、★小腸(あるいは大腸)を皮下に挙上し、その際は形成外科と協力し、血管吻合を追加して血流改善、腸管壊死予防します。右胸部に1本、腹部に1本、鼻から胃内に1本の医療用チューブ(ドレーン)、腹部に栄養用チューブ1本が入っています。(金原出版 手術77 273-280 2023年2月、日本臨床 食道癌2024年82 (増刊号3) 351-357, 2024.
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胃内容積と血流に強みのある亜全胃、顎まで届く長い細径胃管を適材適所に。
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