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乳腺・内分泌腋窩リンパ節郭清の省略とセンチネルリンパ節の摘出

乳がんの手術は原則的に腋の下のリンパ節(腋窩リンパ節)も同時に切除します。これを腋窩リンパ節郭清と呼びます。具体的には握りこぶし大の腋の下の脂肪組織を、重要な神経や血管から丁寧により分けて取ってくるという操作です。そして術後にこの脂肪組織から小豆ほどの大きさのリンパ節を全て(おおよそ10~20個程度)取りだし、顕微鏡を使った病理検査で転移があるかどうかを調べます。例えば、「腋窩リンパ節に転移が3個あった」という場合は、腋窩リンパ節郭清を行い数十個のリンパ節を取り出したが、これらのうちの3個のリンパ節にがん細胞が見つかったということを意味します。

腋窩リンパ節郭清の目的の一つは、がんの転移しているリンパ節を切除することです。腋の下のリンパ節にがん細胞がとんでいれば、そのリンパ節は次第に硬く大きくなり、そして重要な神経や血管を障害することになります。これを未然に防ぐために手術の際に腋の下のリンパ節を取るわけです。もう一つは、リンパ節転移の有無を調べることで乳がんの全身への拡がりを推測し、術後の治療法(抗がん剤の種類、放射線治療の必要性など)を決定することを目的としています。近年の研究により、乳がんには「再発しにくいもの」と、しこりができはじめたごく初期の頃からがん細胞が血液やリンパ液によって全身に運ばれ、そこで乳がん細胞が増えて、手術して何年か経過した後に再発する「再発しやすいもの」があることがわかってきました。乳がんが「再発しにくいもの」か「再発しやすいもの」であるかを区別するのに、腋の下のリンパ節にがんが転移しているかどうかということが最も有用な指標です。リンパ節に転移のある患者さんは転移のない患者さんに比べ、将来再発する危険性が高いので、再発を防止するために転移のない患者さんに比べ、より強力な術後の治療が必要となります。つまり、術後の治療法の種類を決定するために腋窩リンパ節郭清が行われるのです。

実際にはがん細胞が転移している可能性が高いリンパ節(硬いぐりぐり)を術前に腋の下に触れる患者さんは乳がん患者さん全体の2~3割です。そして、このような硬いぐりぐりを触れない(腋窩リンパ節転移の可能性の低い)患者さんは全体の7~8割を占め、このうち手術後の顕微鏡による検査(病理検査)で調べて本当にリンパ節にがんの転移があった患者さんは1~2割程度です。すなわち、乳がんの患者さん全体の6~7割は詳しい病理検査でも腋窩リンパ節に転移がないわけで、これら6~7割の患者さんには腋窩リンパ節郭清を行わなくても良かったことになります。しかし、術前に腋の下を入念に診察しても、腋の下のリンパ節にがん細胞が転移している患者さんだけを正確に選ぶことができないので、今までわれわれ乳がん外科医は乳房にできたしこりを取り除く手術と同時に、腋窩リンパ節郭清をほとんど全ての患者さんに行ってきました。

最近、乳腺組織からのリンパ液が最初に流れ込む腋の下のリンパ節だけを(約1~3個のリンパ節でセンチネルリンパ節と呼ばれる)取り出し、このリンパ節についてのみがん転移の有無を調べれば、腋の下のリンパ節全部を取らなくても、残りの腋窩リンパ節に転移があるかどうか正確に推定できるとの報告が欧米ならびにわれわれのグループを含む日本の研究者から数多くなされています。この方法はセンチネルリンパ節生検と呼ばれています。センチネルリンパ節生検によりリンパ節転移のない乳がん患者さんは、不必要な腋窩リンパ節郭清を受ける必要がなく、また術後の治療法を選択するのに必要十分な情報が得られ、そして上腕のむくみや肩関節の運動が制限されるなどの術後合併症を避けることができるようになります。しかし残念ながら現時点ではすべての患者さんにセンチネルリンパ節生検を行うことはできません。この方法は腋窩の触診、超音波検査、マルチスライスCT検査で腋窩リンパ節転移がないと術前に診断され、しかもしこりの大きさが2cm以下の乳がん患者さんが適応対象となります。もしも手術中に顕微鏡で調べる迅速組織検査で摘出したセンチネルリンパ節にがん細胞が見つかれば、残っている腋窩リンパ節にも転移している可能性が否定できないことから、通常の腋窩リンパ節郭清へと手術法は変更されます。

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